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ドクターKの独りごと7. 「クナッパープッシュ」

かっこいいカラヤンと真逆の指揮者がいた。ハンス・クナッパープッシュ(愛称クナ)。今からちょうど100年前にドイツで活躍した人物である。拍手・喝采を嫌い、決して観客に向かってお辞儀はしなかった。そのかわりコンサートマスターの横に立って観客と一緒にオーケストラに拍手をする風変わりな人間だったらしい。

 

クナの演奏スタイルは極めてクセが強い。まず曲のテンポが遅いのだ。オケの団員からもうちょっと早くしてもらえませんかとよく言われたらしい。ただ遅いだけではない。常に緊張を強いられながらなおかつ遅いのだ。なるほどこれはきつい!でもその音楽は実に多くのファンがいるのも事実なのだ。

 

彼の奏でる演奏は...果たして音楽といっていいのだろうか?例えばブルックナーの交響曲第8番。喜びや怒り、憂いや安堵といった人間臭さが全く感じられないのだ。第1楽章から第4楽章まで通して聴くとゆうに1.5時間を越えてしまう。しかし飽きないのだ。なぜか?…疲れないからだ。聞く人間に余計な考えを強いない演奏なのだ。例えていうならば春、水色の空にさえずる雲雀。夏、黄金色の夕日にきらめくさざ波。秋、夜長に歌う虫のこえ。冬、パチンとはじけるの薪の音。四苦や八苦を超越し、ただ美しい音に身を委ねる…第4楽章が終わったらもう1度初めから聞いてみたいという気持ちにさえなる。人間臭くないというのはブルックナーという作曲者自身の特長でもある。しかしほかの指揮者の演奏ではその特長を出すのが難しい。聞いていて途中で飽きてしまう。でもクナの指揮だと飽きないのだ。ブルックナーの曲とクナの指揮の相性がいいといえばそれまでだが、実はブルックナーもかなり風変わりな人間で…それはいずれあらためて文にしたい。

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医療従事者の仕事はとても人間臭く、それ故につらいことも多い。大きな問題にぶつかって身も心も疲れ果て、ストレスでボロボロになっても、それでもまだこの仕事を続けようと立ち上がれるのはなぜなのだろうか?それは金色燦爛たる美しさを放つ言葉を言われることがあるからだ。

「ありがとう…」

他の誰でもない、患者さんやその家族から言われるこの一言ほど我々に勇気を与え元気にさせてくれる「音」はない。

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クナはワーグナーに陶酔し、バイロイト祝祭歌劇場にあるワーグナーの胸像前に1人座って時間を費やすのが好きだったそうだ。胸像のワーグナーとクナはいったいどんな話をしたのだろう?ドイツのバイロイト…仕事を退職したら是非訪れてみたい。

                            旭川リハビリテーション病院副院長