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ドクターKの独りごと10. 「オフロードパス」

タックルされながら味方にボールを託すラグビーのプレーをオフロードパスというらしい。投げた球が相手にとられる危険が高いため、これまでの日本ラグビー界ではあまりプレーされていなかったようだ。2019年秋、悲願のワールドカップ8強入りを決め、日本ラグビーの歴史を変えたチームジャパン。その試合でオフロードパスは随所で見ることができた。圧巻は対スコットランド戦。7-7の同点でむかえた前半25分。捨て身の3連続オフロードパスで繋がれた楕円球は最後、プロップの稲垣選手の胸の中におさまった。そしてトライ、試合を決めた。プロップである彼が最後トライを決めたのも泣かせる。インタビューではプロになってからトライしたのは数回しかないという。実際、日本代表になってから30数試合、1度もトライはしていない。稲垣選手の名誉のために言っておくが、フォワードは仲間がトライするために相手を潰すという重要な役目があり、そういった意味ではノートライは献身の象徴ともいえるらしい。「代表に入って7年間で初めてトライしましたけど、慣れてないので両手でいきました」愚直なインタビューの答えにも泣かせられた。

 

オフロードパスを成功させるためには選手の高い運動能力と技術、そしてなにより仲間のサポートが必要だ。巨漢に猛烈にタックルされたら一瞬気を失うこともあるだろう。バランスを崩し、地面に倒れこむまでの刹那のなか、仲間を見つけ、片手で仲間にボールを託す。受け取る仲間も、ボールを受け取りやすい位置に寄り添っていることが重要であろう。稲垣選手は偶然そこにいたわけではないはずだ。

 

『仲間』辞書にはある物事を一緒になってする者、同じ種類に属するものと書いてある。同じ職場で仕事をする。同じクラスで勉強をする。たしかにそれは仲間であろう。一緒にいる時間が長ければ親しい仲間になった気にもなる。でも上述する「仲間」は同じ意味をもつ言葉としてとらえていいものだろうか?たとえ接点はなくても同じ目標に向かって同じ汗をかきながらがんばる。互いに尊重し合い、たたえ合う。お互い言葉ではない何かに結ばれている。ひとはそれを「絆」と呼ぶのだろう。

 

急性期病院から転院した患者さんは、なんとか助けようと頑張った前医の思いも含めて引き継ぐ。そして自分も「よろしくお願いします」の1行に様々な思いを込めて次の転院先へ紹介状を書く。同じ医師同士、病院は違ってもお互い「絆」を感じながら仕事をしていきたいと思う。新型コロナでコミュニケーションを取りにくい時世であるから猶更である。

 

また新しい1年が始まる。ウイルスとの闘いにまだ終わりは見えないが絶対に負けない。「仲間」と一緒だから。

旭川リハビリテーション病院副院長